調布と三鷹をフィールドに「つながりのデザイン」に取り組む一般社団法人グッド・コモンズ。「良き共有地(=グッドコモンズ)」を冠した団体を2022年に発足して一年半、これからの地域にどんな未来を描いているのでしょうか。
はじまりは偶然の出会い
― グッド・コモンズを立ち上げた経緯を教えてください。
吉葉真暁(以下吉葉):私は以前、特別支援学校に勤めていたんですけど、学校という組織以外の場所で活動したいと考えて2020年に退職。まずは自分が住む地域のことをよく知ろうと、地域のコミュニティやイベントに顔を出すようになりました。そうして参加したイベントの中で、現グッド・コモンズメンバーの井藤さん※と出会ったのがグッド・コモンズの始まりです。
※取材の日は仕事のため欠席
吉葉:井藤さんは子どもを取り巻く環境に課題意識を持っていて、初対面から意気投合。その後、井藤さんから会わせたい人がいるという話があって、香坂さんを紹介されました。
吉葉:香坂さんとの出会いは私にとっては衝撃でした。今の社会が抱える課題についての知識がとんでもなく豊富で、その考察が本当に興味深くて…… 出会ってから一年くらいは調布や三鷹のカフェで週に一回のペースで会っていろいろな話をしました。
―香坂さんが社会課題に関心を持ったきっかけは何だったんですか?
香坂:私は現在自分で会社を経営していますが、会社員時代から今の社会構造に生きづらさを感じていました。以前勤めていた外資系の会社は、とにかく多忙。もちろん働けば働くほど収入は上がりましたが、幸福感は全く高まらない。一方で、会社はそうして得た利益を環境保護や被災地支援に寄付していて、一見社会に良いことをしているように見えるけど、その裏で社員は疲弊し、退職や鬱になる人も多くみてきました。そんな社会構造にジレンマを感じていました。とはいえ、一個人では社会構造的な問題を解決することはできません。だから、まずは世の中にある課題を知ることから始めてみたんです。児童養護施設や環境問題の解決に取り組む企業、障害者雇用をしている会社などに実際にたくさん足を運びました。
―社会の現状を知ることから始めたわけですね。
香坂:はい。その結果、今の社会課題はどれも、人の心のありように帰結するんじゃないかと考えるようになりました。つまり、社会に変化を与えるためには、心の変容が必要なんじゃないかと。それからライフワークとして、地域社会の孤独や無縁化の問題に取り組み始めました。そんなときに井藤さんに紹介されたのが吉葉さんでした。
―地域のつながりに関心を持つ二人だったからこそ、意気投合したわけですね
吉葉:出会った頃は社会課題に対する考えを共有していただけでしたが、いつからか「自分たちが住むこの地域につながりを生むにはどうしたらいいか」というテーマに話題は変わっていきましたね。そうして実際にアクションを起こそうとグッド・コモンズを立ち上げました。
― 中山さんはどういった経緯でグッド・コモンズにジョインしたんですか?
中山昭子(以下中山):吉葉さんと地域の飲み会で顔を合わせたのがきっかけでした。私も子どもを取り巻く環境に課題意識を持っていて、吉葉さんの考えに強く共感したんです。それがちょうどグッド・コモンズが立ち上がったタイミングで、一緒に活動したいと思い参画することにしました。
地域の飲み会も、大型イベントも。共通するのは「つながりづくり」
―グッド・コモンズの活動内容を教えてください。
吉葉:立ち上げ当初から継続しているのは、毎月第3金曜日に深大寺で開催している「コミュニティ居酒屋」ですね。誰でも参加できる飲み会で、地域の人の出会いの場になっています。
―楽しそうですね。
吉葉:居酒屋というかたちをとったのは、シンプルに私たちがいろいろな人と飲みたかったから(笑)企画を考えるときは、自分たちが楽しめることを大切にしています。
香坂:コミュニティ居酒屋は「みんなで楽しむ」がコンセプト。「お客さん」と「店員さん」という関係はなく、その場にいる全員が主体的に関われる場づくりをしています。
―どんな方の参加が多いですか?
中山:地域活動に関心がある人も来ますし、ただ飲み会が好きな人も来ます。最近は子ども連れのママも多いですね。子連れで気軽にお酒が飲める場所ってまだ少ないんですよね。集まった子どもたちは初対面でもすぐに打ち解けて、一緒になって遊んでいます。ママたちはそんな姿を見ながらごはんを食べたりお酒を飲んだり。そうしているうちに、日頃の悩みがポロッと出てきて先輩ママのアドバイスがもらえたり、その場に居合わせた人同士が意気投合して新しい活動が生まれたり。十数回を重ねてきて、そんな場が徐々にできてきたように思います。
―最近では、ブランチ調布で「調布ストリートパーク」を開催されました。どんな狙いがあったんでしょうか?
香坂:調布ストリートパークは、2022年5月に初開催して今回が3回目。調布駅前から場所を移して、今回はブランチ調布の全フロアをお借りして2日間開催しました。ここでも目指したのは「つながりのデザイン」です。ただ商品を売り買いするのではなく、出店者と来場者、個人と環境、今と未来といった、一見対極にあるものにつながりを感じてもらうことを目指して、さまざまな企画を準備しました。
効率の悪さも武器になる
―活動するにあたって大切にしていることはありますか?
吉葉:企画を考えるときは当然衝突もあります。ひとつの物事を決めるために3時間以上議論したことも(笑)でも、小さな違和感をそのままにせずにみんなが納得感を持って進めていこうということは、立ち上げ当初からの共通認識にしています。今後活動の幅を広げていくと、この効率の悪さが課題になってくるかもしれませんが、今は時間をかけていい時期だと思っています。
香坂:これからの社会に必要な組織は「自分の創造性を発揮し、貢献できる場」なんですよね。トップダウンでなんでも決めて、承認欲求や自己実現欲求が満たされるだけの組織は今後成り立たなくなっていくんじゃないでしょうか。個人的には非効率が悪いとは思っていません。非効率によって生まれる答えもあるはずですから。
― メンバーに役割分担はありますか?
吉葉:明確に決めた役割はなくて、それぞれが得意なことやできることをしています。私は地域の人と直接会って話をすることを大切にしたいという気持ちが強いので、もっぱら誰かに会いに動き回っていますね。その中で得られる小さな気づきが活動のヒントになっています。
中山:私は子育てや農業のことに関心があるんですけど、イベントのときはチラシやポスターのデザインもやります。やれることは何でもやるというスタンスです(笑)香坂さんは私や吉葉さんの「やりたい!」に対して、視点を引き上げてくれたり、全体観を与えてくれたり。事業として考えてくれるので、衝動的に動きがちな私にとってはとてもありがたい存在です。
香坂:吉葉さんと中山さんは、想いを人に届けたり同調してくれる人を集めたりすることが得意。共感資本主義って言葉もありますけど、この能力は目先のお金を稼ぐ力よりもずっと貴重なもので、グッド・コモンズになくてはならない力だと思います。私は思考するのが好きで、経営的な目線で物事を見るのが得意。それぞれがそれぞれの得意を生かしながら活動して自然とバランスが取れている、今はそんな状況です。
吉葉:最近ではメンバー以外にも、グッド・コモンズのことを主体的に考えてくれる人が増えてきました。例えば、調布ストリートパークでは「ゴミの削減」を目指していたんですけど、ゴミ対応について出店者やボランティアの方から指摘がありました。もちろん我々運営側の反省点でもありますが、イベントの要点を理解して運営側に近い目線で考えてくれていることがわかってうれしかったですね。
地域から未来は変わる
―最後に、これからのビジョンについて教えてください。
香坂:この地域を「住むに値する地域」にしたいです。調布と三鷹って「便利」で「快適」な街ではあるんですけど、これからの時代にそれだけでは不十分。コンビニは24時間でなくてよくて、その代わりに自然と触れ合えて、多様な人と交われる地域であってほしい。私たちの子どもが暮らす未来が、つながりのない”無縁社会”では困るんです。
香坂:そのためには、今ここに住む大人の心を変えなければなりません。そして、人の心を変える方法は「楽しさ」でしかない。例えば、コミュニティ居酒屋の空間を楽しいと感じたら、私もどこかでやってみようって思う人が出てくるはず。大切なことは“あったらいいな”という価値観に気づいてもらうこと。それが、次のアクションにつながっていくんだと思います。
吉葉:私の生涯のテーマは、子どもたちが今後、この地域、この世界でどう生きていくかということ。私は世界を変えることはできないけど、少しでも未来の子どもたちがより良く生きられる環境につながるアクションをしていきたい。その一つが、誰もがフラットに心地よくつながれる場や環境=グッドコモンズをこの地域でつくっていくことだと思っています。
昨今、自分が住むまちに満たされない気持ちを持つ人は少なくありません。その欠乏感の理由にまずは気づくこと。そして感じた一人ひとりの“あったらいいな”が一つずつかたちになったとき、地域はもっと住みよくなっていくのかもしれません。三鷹と調布からさまざまな社会課題の解決に挑む「グッド・コモンズ」。彼らの取り組みが、奥深大寺の暮らしをより豊かに、より楽しくしてくれそうです。