奥深 OKUJIN

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地域の活動

交流が生み出す地域の中の
「観光」と広がるコミュニティ

市民や地域とのつながりを基盤に三鷹の魅力を創造・発信するNPO法人「みたか都市観光協会」。事務局の瓜生田和正さんと横堀陽子さんとともに、奥深編集長 薩川良弥が地域コミュニティの活性化や連携について語りました。

オールマイティな切り口「観光」で地域の魅力を捉える

三鷹駅前にある観光案内所の運営、WEBサイトやSNSでの情報発信、音楽イベントや各種講座の開催、フィルムコミッション事業の運営など、みたか都市観光協会は2008年の設立以来、多岐にわたる事業に取り組んでいます。「市民が観光大使~住んでよし、訪れてよしのまち三鷹~」という法人の基本理念の通り、その取り組みを支えているのはたくさんの市民です。人々の交流によるにぎわいのあるまちづくり、そして地域の活性化を目指す同協会の思いとは。

左から、みたか都市観光協会事務局の横堀陽子さん、瓜生田和正さん

奥深編集長 薩川良弥(以下、薩川):「みたか都市観光協会」の取り組みを拝見していると、運営をするみなさんと地域で活動する市民との距離がとても近い印象を受けます。観光協会としてどのように「観光」を捉えて地域と関わりながら事業を行っているのでしょうか。


みたか都市観光協会 瓜生田和正さん(以下、瓜生田):私たちは基本理念に基づき様々な事業を行っていますが、特定の誰かではなく「市民一人ひとりが観光大使」ということを前提に、三鷹に暮らす人や三鷹を訪れる人に楽しんでもらえるまちになるよう尽力しています。
これまで「観光」というと、自分が暮らす場所ではないどこか遠くに旅行するようなイメージが一般的でしたが、特にコロナ禍以降はその言葉の捉え方が大きく変わったと思います。例えば自分のまちの知らなかったお店を開拓してみるとか、隣のまちを散策してみるとか、それくらい身近なことも観光と表現できるようになっています。私たちは観光協会として遠方から三鷹に来てもらうための取り組みもしていますが、それ以外に市内の離れた場所同士をつないだり、市内だけでなく近隣地機と連携し周遊を促すような事業にも力を入れてきました。また地域の中の観光にまつわる活動をする市民団体などの支援も日頃から行っています。

みたか都市観光協会 横堀陽子さん(以下、横堀):私も「観光」はとても幅広く捉えられると思っています。例えば三鷹には農地があり、農家さんの多くは地域の中でさまざまな役割を担っています。私たちにとって、地域を支えてくれる方々の存在も自慢の一つですが、三鷹に住んでいてもこうした魅力に出会うことなく過ごしている人もたくさんいると思います。私たちは「観光」という切り口で、地域、産業、人など、あらゆるテーマを扱い、その魅力を広めることにより、出会うきっかけをつくっています。


薩川:地域の魅力をまずは市民とともに共有することで、「市民一人ひとりが観光大使」の精神も自然と浸透していきそうです。観光協会の事業についても、企画の段階から市民と一緒にアイデアを考えたりしていますよね。


瓜生田:そうですね。私たちが毎月会議を開催している「みたか都市観光協会企画委員会」という、市民参加のプラットフォームがあります。この委員会では観光にまつわる情報交換や意見交換、事業の提案などをしていますが、アイデア創出や仲間づくりの場にもなっている大事なコミュニティだと思っています。月に1度の会議には、立場もバックグラウンドも様々な人たちが、10~20人くらい集まり、そこで提案された企画を観光協会が事務局となって実現することもあれば、市民だけでつくりあげることもあります。

みたか都市観光協会企画委員会メンバー(みたか都市観光協会提供)

薩川:企画委員会には僕も参加させてもらったことがありますが、会議後に交流の時間が設けられているのがすごくいいなと思いました。その時間があるからこそ参加者同士の関係性も生まれていきますね。


瓜生田:実は会議後の交流が“肝”なんです。企画委員会はもう10年以上続いていますが、毎月の会議には新しい人も常に入ってきてくれるので、しっかり議論し合った後はラフに打ち解ける時間として大事にしています。さらにその後もっと話したい人たちで飲みに行くこともあり、より深い議論やアイデアはそういうところから生まれてきたりもします。

地域の中の「やってみたい」を支援する。きっかけづくりも担う観光協会

薩川:奥深大寺エリアは三鷹と調布という2つの市が入り組んだエリアなので、行政区域に縛られないコミュニティづくりや共創を模索しています。みたか都市観光協会のこれまでの取り組みで、近隣地域との連携についてぜひお聞きしたいです。


瓜生田:武蔵野市・三鷹市・小金井市の行政とそれぞれの観光協会という6団体が、市民同士のつながりや連携を増やそうと協働した「となりまちプロジェクト」に、2018年度から2022年度まで参画していました。それぞれの地域で活動している人やこれから活動したいという人たちを募り、交流会やまち歩きをしたり、地域の農産物を使ったレシピ開発やクイズラリーなど、市民の企画を実現化する支援をしてきました。プロジェクト自体は6年目から行政や観光協会が事務局を離れましたが、その後は3市の市民が中心となり、地域の情報発信やイベント開催などをしながら活動を継続しています。

3市連携事業から発展し、現在はプロジェクトメンバーが発信を続ける「となりまちプロジェクト」 https://tonarimachi.net/

薩川:行政の連携事業として始まった取り組みが自治体の枠を超えた市民同士のコミュニティを生み出し、市民主導で活動が続いていくというのは理想的な発展の形ですね。市民活動の入口をつくりそのコミュニティの自走までを伴走するためには、まずはどのような支援が必要ですか?


瓜生田:明確にビジョンがあるわけではないけれど地域で何かやりたいと思っている人はたくさんいるので、まずは小さく始めるきっかけとして背中を押せたらと思います。例えば今年の3月にみたか都市観光協会の15周年記念イベントを駅前の広場で開催しましたが、そこで企画委員会から出たアイデアを、イベントのコンテンツとして委員会の参加者を中心にいくつか実施してもらいました。そのように「ちょっとやってみる」が実現できる場を求めている人もいれば、一から活動やプロジェクトをつくりたいという人もいるかもしれません。ただ初めからいきなり全部やるのは難しいので、支援の方向性は様々ですが、できるだけ私たちのような機関がバックアップできたらいいと思います。


薩川:観光協会なのでもちろん「観光」という切り口ですが、市民の活動を支える存在でもあるわけですね。市民は観光大使としてまちの魅力を発信し、観光協会が市民の活動を支える。一方通行ではない双方向の関係性がとてもすてきだなと思います。これはつい先日の個人的な体験談ですが、三鷹の和菓子屋さんで買い物をしたら、お店の方が商品に使っている三鷹産の果物について色々教えてくださったんです。それはお店の方にとっては自然なことで、おそらく日常の一コマだと思うのですが、それくらいラフにまちの魅力を伝えるアクションが広がっていくと、まちを盛り上げる仲間がどんどん増えていきそうですね。

奥深編集長 薩川良弥

資源不足を補うコミュニティと仕組みづくり

薩川:観光協会と市民との関係性がとてもうまく機能している印象ですが、観光協会としての課題はどのようなところにあるでしょうか?


横堀:三鷹市は人口が20万人近くいて、昔から積極的に地域に関わってくださる方がたくさんいます。その一方で、地域活動とは無縁という方も多いんです。それぞれが居心地よく暮らしているのであれば、そこは無理に交わらなくてもいいと思いますが、活発に地域のことに取り組む方もそうでない方も、お互いの存在に気づくことができるといいのかなと。そのために観光協会は情報発信をしていますが、それ以外にできることもあるのではないかと模索しています。

瓜生田:純粋に観光協会を運営する私たちが常に直面している課題としては、人的にも物的にも観光協会の資源が小さいということがあります。観光協会は職員3名で全ての業務を担いながら、日々アンテナを張って情報収集に奔走しています。観光案内所でのお土産品や三鷹の森ジブリ美術館 三鷹市・近隣市民枠チケット販売の手数料、イベント収益などで自己財源を増やす努力をしていますが、観光需要の高まりとともに業務量も増大しているので、根本的な解決には至っていません。
人手不足については「みたか観光応援隊」という仕組みがあり、登録してくださった方にイベントのお手伝いやフィルムコミッション業務のお手伝い、観光スポットの掘り起こしや情報発信などで活動してもらっています。無償のボランティア制度ですが、活動の内容に応じて、地域通貨である「みたか地域ポイント」が付与される仕組みです。どの事業も職員だけで運営していくことは難しいので、応援隊や企画委員会のみなさんのサポートは私たちにとって無くてはならないないものとなっています。


横堀:今は来年度に向けて外国語MAPの制作を進めていますが、そのプロジェクトチームにもアイデア出しの段階からボランティアの方に参加してもらっています。市民と一緒につくり上げていくというプロセスは大事にしていきたいです。

みたか観光応援隊ボランティア活動風景(みたか都市観光協会提供)

顔の見える関係の先にある奥深大寺エリアの共創の可能性

薩川:そういった課題解決の一助となるような仕組みづくりは、奥深大寺エリアでの活動のヒントにもなりそうです。観光という視点で、奥深大寺エリアで三鷹も調布も交えた地域の人たちと一緒に取り組むとしたら、どのようなことが考えられるでしょうか。


横堀:私たちがつくっている「みたか散策マップ」の「Area6」が奥深大寺エリアにあたりますが、そこでは神代植物公園や深大寺も周遊コースとして紹介しています。その西側には三鷹の大沢という地域を通って調布の方まで、国分寺崖線に沿って野川が流れています。その辺りを散策する方にとっては市境は関係ないので、例えば野川を散策しておいしいものを食べて温泉に入るような一連の流れで、エリアを一体として捉えると何か生まれるのではないかと思います。また駅から離れているエリアなので、タクシー会社やバス会社など交通機関との連携も考えられそうですね。

みたか都市観光協会が発行する「みたか散策マップ」 https://meene.app/walking-map/

薩川:近隣の自治体や観光協会など、組織同士の連携で足並みを揃えていくために大切なことなどはありますか?


横堀:組織はそれぞれルールもやり方も違うことが多いですが、それでも連携して事業を動かしていくのはその中にいる人なので、まずはお互いを理解することだと思います。


瓜生田:となりまちプロジェクトのときは6つの組織での連携だったので、やはり関係性をつくるところから始まりました。会議では少し近づきにくい雰囲気があっても、懇親会などで話をすることで人となりが伝わり、顔の見える関係になっていきました。プロジェクトの事務局としては2022年度までの関わりでしたが、つい先日も小金井市の方が私たちを訪ねてきてくれたりと、関係性は今でも続いています。調布市との南北のつながりもこれからもっとつくっていきたいですね。

Profile
みたか都市観光協会

「市民が観光大使~住んでよし、訪れてよしのまち三鷹~」をキャッチフレーズに、三鷹のまちの魅力を創造・発信していくため、観光案内所の運営、WEBサイト、SNS等を使った情報提供、音楽イベントや各種講座の開催、フィルムコミッション運営など、市民の皆さんとともに楽しく取り組める事業を展開しています。

みたか観光案内所

三鷹市下連雀3-24-3-101/0422-40-5525/9:00~18:00
定休日:火曜日、年末年始 ※臨時休業あり
Point!

奥深大寺推しポイント

・深大寺天然温泉「湯守の里」の黒湯が大好きで、観光協会の定休日(火曜日)によくお邪魔してリフレッシュしています。(by瓜生田)
・なんといってもクリーンプラザふじみの煙突。離れた場所からも見えるため、これを目指せば三鷹(奥深大寺)に迷わず帰れますし、姿が近づいてくると「ああ本拠地に戻ってきた!」と嬉しくなります。(by横堀)