
2024年11月にブランチ調布にオープンした「N&H CAFE」。地元野菜や雑貨の物販スペースもあるカフェのほか、焼菓子製造や福祉サービス事業などを融合した多角的なスタイルで、さまざまな人とつながりながら地域に根づきはじめています。
地域の魅力発信と就労継続支援サービス。互いの強みを活かしたアウトプットは「カフェ」
ソファー席でくつろぐ人、ショーケースからタルトを選ぶ人、カウンターの中でコーヒーを淹れる人、雑貨のスペースを目当てに訪れる人、奥の焼き菓子工房で働く人…。日々さまざまな人が出入りするN&H CAFEを運営するのは、2024年に設立されたエヌアンドエイチカンパニー株式会社。同社は就労継続支援B型事業所を運営する髙井幸夫さんと、雑貨や空間演出を通じた全国各地の魅力発信事業を手がける林和央さんが、お互いの専門領域を活かす仕組みづくりを発展させるかたちで、共同で立ち上げました。取締役を務める林さんに、N&H CAFEに込める思いや奥深大寺エリアとの出会い、人との関わりについて聞きました。

—就労継続支援サービスと商品開発や空間づくりという、全く別の領域にいるお二人がともに会社を立ち上げることになった背景を教えてください。
林和央さん(以下、「林」):エヌアンドエイチカンパニーを立ち上げる前の2018年から、髙井も私もそれぞれ自分の会社で事業展開をしてきました。髙井が運営している就労継続支援B型事業所はものづくりをする作業所なので、つくれる人、手作業ができる人がたくさんおり、ものづくりにどれくらいクオリティーを求めるか、つくったものをどれくらいの価格で販売するか、どういう販路を開拓すればいいかなどを模索していました。一方で私の会社では、地域の伝統産業の技術や廃棄される素材の活用、人の手を感じられるパッケージの工夫など、付加価値となるストーリーを大切にしながら商品開発をしていて、この2社で協力体制を組むことができたらいいかたちになるんじゃないかと考え、ものづくりや物販、空間演出の制作物などで協力し合うようになったんです。
—お互いの事業を支援し合うだけでなく、なぜカフェという新しい場をつくり出すことになったのでしょうか?
林:二人ともずっとカフェをやりたかったんです(笑)。本腰を入れてタッグを組むときにはカフェだなという共通の意識があり、たまたまご縁をいただいたブランチ調布で開業することができました。髙井も私も会社を運営しながら、新たに二人で立ち上げたのがエヌアンドエイチカンパニーです。

—お二人ともそれぞれの会社の拠点は川崎市ということですが、奥深大寺エリアの印象はどうですか?
林:とても気に入っています。店舗立ち上げの準備時から、通りがかりの人が「どんなお店が入るの?」とか「カフェを応援したい」という声をかけてくださったりして、場所の雰囲気や人の印象がとてもよかったんです。またブランチ調布という施設のもつ背景や、地域の方たちに愛される施設を目指すという思いに共感して、ここでカフェを開きたいという気持ちになりました。私たちも地元の方に喜んでいただけるような環境づくりを一緒にしていきたいと思っています。
気兼ねなく立ち寄れる、地域のものに出会える場
オープンから半年にして、地元野菜の販売やイベントへの協力など地域とのつながりを軸にした取り組みを積極的に行うN&H CAFE。そこには新たに拠点を構えた地域からの期待や、人と関わることでさまざまな地域できっかけづくりをしてきた林さんの経験がありました。

—地域の方との新しい出会いもまだまだ多いと思いますが、オープンから半年経ちどんなカフェになっていますか?
林:N&H CAFEは、「毎日通いたくなるお店」をテーマにしています。飲食目的ではない人にもぜひ気軽に立ち寄ってほしいという思いで、飲食と物販という二つの軸をつくりました。ちょっと覗いてみて、そのときに気になるものがなければ何も買わなくても、食べなくても、もちろんぜんぜん構いません。物販スペースでは雑貨だけでなくこの地域の農家さんがつくった野菜なども置いているので、寄ってみたら地元の野菜が買えたり、地元の素材を使った料理を味わうきっかけになったり、そういう出会いがある場になっていけたらと。


—地元の農家さんとの関係性がすでにできているんですね。
林:まだカフェのオープン準備をしていた時期に、ブランチ調布で子ども食堂を開催している社協のご担当者さまと知り合い、農家さんをご紹介いただきました。農家さんも新しくできたカフェを応援する気持ちで協力してくださって、不定期で野菜を置かせてもらうことになりました。もともとこの地域につながりがない私たちがお店を始めるにあたって、ここで出会う方たちがいろんな人を引き合わせてくれるのは、本当にありがたいことだなと思っています。この辺りには果物をつくっている農家さんもいるので、カフェでは今後、地元の旬の果物を使ったタルトや、農家さんとのコラボメニューも登場する予定です。

—それは楽しみです。地元野菜はお客さんの反応はどうですか?
林:だいたい毎週土曜日の朝に農家さんが「採れたよ〜」って、収穫した野菜を持ってきてくれるんです。それが夕方にはほとんどなくなっています。持ってきてもらう野菜は、規格外のものや土がついたままのものなどですが、とても立派なものばかりです。なるべく農家さんに負担をかけず、買ってくれるお客さんのお財布に優しい値段で出せるようにしています。よく来てくださるお客さんはそれを知っていて、野菜がたくさんあるタイミングで来店してくださっています。
—雑貨のスペースにも地域の魅力を発信するような商品が増えていくのでしょうか?
林:そうですね。今は私の会社で扱っているものの中から、地域の伝統産業の技術や廃材を使ったオリジナル商品のほか、日常がちょっと豊かになるようなものをセレクトしています。どれもその地域の人とのつながりで生まれ商品や、仲間からの縁で仕入れることができるようになったものばかりで、本当にいろんな人に助けられていますね。調布や三鷹でも少しずつ地元のつくり手と出会って、この地域でつくられた商品を増やしていきたいと思っています。

人も“もの”も空間も。多様だから生まれるゆとりや持続可能性
飲食に物販、焼き菓子製造、福祉サービスなど、複数の事業の要素が融合するN&H CAFEには、初めて訪れた人の緊張をほぐすような居心地のよさがあります。それはエヌアンドエイチカンパニーのウェブサイトに「障害福祉・飲食・雑貨販売などを通じて持続可能な社会を目指す」とある通り、多様な業態でさまざまな人が関わるからこそ創出できる場づくりなのかもしれません。

—エヌアンドエイチカンパニーが目指す「持続可能な社会」について聞かせてください。
林:N&H CAFE は、いわゆるカフェの運営もあれば物販もあり、店内提供のほかに外部に卸す焼き菓子の製造もしています。また6月からは就労継続支援B型事業所としての機能も加わり、焼き菓子製造やカフェの運営を通じて、障がいのある方々の就労支援も始まりました。カフェとしては一般のスタッフとB型事業所の利用者が一緒に働いていて、そういう多様な環境が私たちのカフェのあり方です。ものづくりの面では、地域の技術や端材・廃材を活用したり、カフェのメニューでも廃棄するものをなくす道筋をつくりながら商品開発していくことを大前提として考えています。そういう環境が当たり前になることが、私たちの目指す持続可能な社会につながると思っています。
—その多様性の持つ力なのか、N&H CAFEの空間は、落ち着いて好きに過ごしていいような気持ちにさせてくれます。
林:ありがとうございます。空間づくりの面でも、テーブルや椅子、ソファーをあえて統一せず、色々なタイプのものを使うようにしたり、入口から中が見えて入りやすい、明るく開放感のある空間を意識しました。近隣のお客さんでは、平日の夕方に子どもと来て宿題をする方がいたり、プール帰りに寄ってランチしてくれる家族がいたりして、ここで生活のワンシーンが垣間見えるんです。またスタッフやB型事業所の利用者さんも地域の方が多いので、休みの日に家族でお店に来てくれることもよくあります。それくらい日常の中で気楽に立ち寄れる場所、居心地のいい場所と思ってもらえているのはとても嬉しいです。

—6月にブランチ調布で開催された「奥深ファーマーズマーケット」では、地元の野菜を使ったイベント限定のメニューを提供していましたね。これから新しい取り組みも増えるでしょうか?
林:イベントでは10月にまたブランチ調布のいこいのひろばで「奥深大寺オクトーバービールフェス!」があるので、そのときにはちょっと特別なビールを提供できるよう準備を進めています。人のつながりもいろいろな分野で増えていて、カフェのスタッフの紹介でものづくり事業を手伝ってくれたり、何かをつくりたい気持ちになったという人も現れました。どういうところにどんなきっかけがあるかは、本当に分からないですし、これまでやってこなかったことでも、自分たちのスタイルに凝り固まらないで、できる限りのことにチャレンジしていきたいと思っています。

—今後の展開が楽しみです。髙井さんと林さんそれぞれの専門性や経験が集結したN&H CAFEをきっかけに、奥深大寺エリアにも新たな出会いやネットワークが生まれていきそうです。
林:私はもともと商品開発や物販などを通して、その地域に人が訪れるきっかけづくりをしてきました。N&H CAFEではさらに多角的な取り組みをしているので、たとえば私たちの焼き菓子をきっかけに遠方からこの場所を知る人がいるかもしれないし、カフェの物販スペースで扱う地元の食品やアイテムからここにつながる人もいるかもしれません。何かのきっかけでN&H CAFEを知った方が、地域の中だけでなく全国からここを目指して来ていただけるような場所にしていきたいです。
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イベント情報
奥深大寺オクトーバービールフェス!
2025年 10月18日(土) 13:00-18:00 ※雨天時 10/19(日)に延期
ブランチ調布 1F いこいのひろば にて開催!
※詳細は、奥深インスタグラムにてお知らせいたします!
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N&H CAFE
調布市深大寺東町7-47-1ブランチ調布1階
営業時間 11:00~19:00
定休日 水曜日
https://www.instagram.com/nandhcafe
https://www.nandhcompany.com